住宅ローン見直しを検討する際には注意点も(イメージ)
目下、持ち家がある人にとって大きな関心事となっているのが住宅ローン金利の動向だ。10月末、国内大手5行が11月に適用する住宅ローン金利を発表。三井住友、みずほ、りそなの3行が固定期間10年の基準金利を引き上げた。最も低かったのは据え置いた三菱UFJの0.83%で、三井住友が0.93%、三井住友信託が1.05%、りそなが1.08%、みずほが1.20%と続いた。
【表】「住宅のお金」で助かる7つの制度
過熱するインフレを抑制するため、金融引き締め策として米FRB(連邦準備制度理事会)が大幅な利上げを続けるなか、日銀は相反する金融緩和策を取っているが、政策転換で利上げに踏み切れば住宅ローンにも確実に影響が及ぶ。
住宅金融支援機構の調査によると、住宅ローン利用者の約74%が金利の低い変動金利型を利用しており、固定金利型を選択した人をはるかに上回る。
この先に待ち受ける住宅ローンの金利上昇をにらみ、返済負担の増大を少しでも軽くしようと、有利な商品に借り換えを検討する人も増えているというが、住宅ジャーナリストの山下和之氏は、「今後の金利上昇を見据えて住宅ローンの見直しを検討するのであれば、ローンの借り換えには諸経費がかかることを忘れてはなりません」と指摘する。
「具体的には、銀行への融資手数料、登記費用、司法書士手数料、住宅ローン保証料などで、金融機関や残高により、数十万~100万円程度かかるのが一般的です。たとえば、現在の住宅ローンが変動金利0.975%で、ローン残高1000万円、残年数10年の人が、金利0.475%の変動金利型に借り換えた場合、10年間の総返済額は約26万円減らすことができる。
しかし、借り換え時の諸費用がそれを上回る可能性が高いので、結局、借り換えはせずに現在の金利0.975%のローンのままのほうが得ということになります」
将来の金利上昇リスクのない「固定金利型」への借り換えはどうか。
山下氏によれば、「残りの返済期間が10年以上でローン残高が多い場合は、変動から固定への借り換えが選択肢となり得るが、短期間のうちに金利が数%も上昇するとは考えにくいので、年金受給が近づいている世代では変動型のままでも金利上昇で損をするリスクはほとんどないでしょう」という。
現金を手元に置いておく選択肢も
住宅ローン見直しの王道である「繰り上げ返済」にも注意が必要だ。消費生活アドバイザーの丸山晴美氏はこう言う。
「繰り上げ返済によってその分の利息負担がなくなり、総返済額の圧縮につながるのは確かなので、一般論としては選択するべきです。老後の固定支出をなるべく減らそうと、退職金などを使って一括返済する人は多いですが、一方で、必ずしも繰り上げ返済をすべきでないケースもあります。たとえば、将来的な子供の教育費の目処が立っていない人、預貯金が(1年分程度の生活費である)300万円に満たない人、50代で老後資金の準備ができていない人は、繰り上げ返済をする前に立ち止まる必要があるでしょう。
そもそも、住宅ローンを組む際は団体信用生命保険に加入するのが一般的で、死亡時や特定の疾病で働けなくなった場合はローンの返済義務がなくなります。もし繰り上げ返済をする余裕があるなら、何かあった時に備えて現金を手元に置くことを優先してもよいのではないでしょうか」
金利上昇への不安から、焦って住宅ローンを見直す必要はなさそうだが、現下の値上げラッシュに収入が追いつかず、万一、住宅ローンの返済に窮したら、どうすべきなのか。
「延滞が3か月程度続くと、金融機関は保証会社から代位弁済を受け、債権が保証会社に移ります。最悪の場合、マイホームを取り上げられたうえにローンだけが残る事態を招きかねません。
ローン支払いが難しくなったら、延滞する前に、必ず金融機関に相談しましょう。現在、金融庁は金融機関に対し、利用者から申し出があれば、返済条件の変更に柔軟に対応するよう求めています。その結果、2020年から現在までに、10万人を超えるローン利用者が返済条件変更を申し込み、その9割以上が当面の返済額を減らしてもらうなどの条件変更を実現しています。あくまでも返済猶予で減免ではありませんが、緊急避難的に利用が可能です」
元金が大きい分だけ、住宅ローンの見直しは慎重かつ冷静な判断が求められる。
※週刊ポスト2022年12月9日号