昨年、かぶせ釣りで磯の王者・イシダイを狙うため島根県浜田市を訪れた。
協力者のサポートもあり、無事イシダイを釣ることができたのだが「浜田にはまだまだヤバい魚がいる」と教えてもらったのが堤防のヒラマサドリームだ。青物御三家(ヒラマサ、カンパチ、ブリ)の中でも引き味が上位と言われるヒラマサが、なんと堤防から釣れるという。
経験値的には昨年と変わらない状況だが…
昨年は、ボイル加工されたオキアミを大きなカゴに詰めて豪快に投げ込むクラシカルなカゴ釣りで狙ったが、多くの地元勢が釣り上げるなか、私にはアタリすらなく悔しい思いで撤退した。
ヒラマサはまだ遠く
余談だが、隣で釣りをされていた方が「ヒラマサがかかったらタモ入れは俺に任せろ」とおっしゃってくれたので、「私もあなたが釣れたら魚を掬います!」と言って意気投合したものの、結局両者その機会を得ることはなかった……。しかし、昨今のSNSで見かける釣り場トラブルとはかけ離れた、人の優しさに触れることができた貴重な釣行であった。
あれから1年……。ホームエリアの関東で青物が振るわず、経験値的には昨年と変わらない状況でのヒラマサチャレンジ。釣れてから取り込むまでのハードルも高いヒラマサ。宿題の学習ドリルを未着手で新学期を迎えるような不安な気持ちだが、今年こそヒラマサを釣るべく、飛行機で島根県に向かった。
事前情報ではヒラマサは好調!
現地の方に話を聞くと、今年はヒラマサの入りが遅かったものの、連日釣り上がるほど好調だという。しかし、釣りあるある「昨日までは良かったんですけどねぇ……」が発動されるかもしれないので、決して気を抜くことはできない。釣りは環境に依存しているため、たとえ半日雨が降っただけでも釣れなくなることがある。
今回はボイルオキアミをたくさん詰められるご当地の青物専用カゴ(山陰カゴ)を現地の釣具店で購入した。
青物はコマセの投射量がものを言うそうで、他の釣り人にせめてインパクトで劣らないように郷に従った。
浜田市が誇る「海上の楽園」沖堤防へ
浜田市の海上には、陸からそう遠くない範囲に複数の沖堤防があり、3つの渡船屋から各所、好きな場所へ上陸できる。
一文字とも呼ばれる全長100mに満たないものから1000mに迫る大堤防まであり、初めて訪れる場合は選択に困るほどだ。渡船屋が釣果情報を更新しているので、直近で釣れている堤防には多くの人が押し寄せる一方、1人も乗っていない堤防と二極化することもある。
青物釣行の初日は、浜田市最長の沖堤防に乗った。釣り場総延長は2000mを越え、関東屈指の釣り公園である本牧海釣り施設(総延長1400m)を軽く凌ぐキャパシティだ。
前日に釣れたポイントは密集していたため、少し離れた場所に陣取って釣りを開始した。
アジは釣れるのだが…
山陰カゴに「これでもか」というほどボイルオキアミを詰め込んで投入した。しばらくして回収するとエサがない。繰り返していると何やら小さな魚がかかっていた。
小アジだ。
浜田の海では、日中からアジが入れ食いになる。しかも神奈川や千葉で行うような2号針のサビキで小さな吸い込みを乗せる繊細な釣りではなく、ヒラマサを狙う大きな針でも飲み込んでくるほど高活性だ。
この釣り放題のアジが20cmを越えるようなら私は真剣に移住を考えるが、15cm未満なので泳がせ釣りのエサかリリースするしかない。さらにエサ盗りとしても厄介だが、一番問題なのはアジが釣れる状況ではそれを狙っている大型の青物が不在というわけだ。初日は13時まで続けたが、青物のアタリはなく終了した。
ヒラマサチャレンジ2日目
この日はアジの群れが表層を回遊しており、足元を行ったり来たりしていた。潜りたくても海中にいる大型魚のプレッシャーを感じて潜れないのだろうか? カゴを足元の中層(水深10mほどのタナ)に投入してアタリを待ってもウキが入る様子がない。回収してみると、魚が喰いついていた。青物ではないが、そこそこの引きで上がって来たのは……。
ヨコスジフエダイ。
思い返せばアジ以外では初魚種。今回はリリースしたが、イサキのような上品な身で大型は脂も乗って美味しいのだとか。逃がすべきではなかったか。アジの挙動も昨日とは違うのでヒラマサを期待したが、その後は何も起こらずただ無情にも時間だけが過ぎていった。
最終日は直近の釣果情報の統計をとって場所を選定
これまでひたすら浜田の海にコマセを撒いて魚を餌付けしてきたので、そろそろ釣れても良いのではないか。最終日は渡船屋の釣果情報と自身が堤防で目視したヒット場面をもとに場所を選んだ。ここで回遊に恵まれなくても諦めがつくと考えた。
海の様子もこれまでとは少し違って、表層でナブラとは違うざわつきがあり、ウキを流すとわずかに右に流される、まさに“釣れそうな雰囲気”が漂っていた。
山陰カゴに期待を詰め込み投入(オキアミを詰め過ぎるとカゴから出ないので注意)。一日のうちもっとも釣れる可能性が高いゴールデンタイムは6時~10時で、お昼くらいまでは期待できる。時合いがはっきりしているので集中力も維持しやすい。
今日はエサ盗りのアジも少なく、付け餌が帰ってくることが多い。最高のコンディションのなかで左隣の方の竿が曲がった。青物は群れで行動するので、こちらのウキも消し込むのを期待するが単発の回遊で終わった。
9時ごろ、今度は右側の方々の竿が曲がって明らかに魚群リーチ状態。自身のウキの周りでも青物らしき魚のライズ(魚体が海面を割って表層のエサを捕食する行為)が見られた。
ついに大型の青物現る!
ウキの周りに3回ほどライズが見られた直後、私のウキが消えた。ウキが消し込むまでの展開がこれまでと明らかに違う。青物を確信して合わせると、カゴ釣り史上最大の豪快な引きが伝わった。
ヒラマサか!?
とても腕の力では引き寄せられないので、竿に体重を乗せて少しずつ寄せる。魚は強い抵抗を見せるも、現地の方のアドバイスを受けてハリスをフロロカーボンの10号にしておいたので安心してやり取りができた。
水面に魚体が浮いて青物は確定したが、魚種はなんとワラサ(小型のブリ。ブリは出世魚なので、60~80cmのサイズは関東地方では「ワラサ」と呼ばれる。80cm以上がブリとなる)であった。
丸々とした身体に顔つきも貫禄がでている。紛れもなく自身初となる大型の青物だった。惜しくもヒラマサとはならなかったが、釣れた喜びは計り知れなかった。
終わらないヒラマサドリーム
帰港すると、すでに何人もの方がヒラマサを両手に撮影をしていた。この日も各所で大型のヒラマサが釣れている。回って来ることが運だとしても、果たして自分に80cmを越えるヒラマサを釣り上げられるだろうか? 引き味はワラサやブリとは比べ物にならないと言われる。今回の経験をもとに道具の見直しと身体を鍛える必要がありそうだ。
そして釣れたワラサは即日、お刺身にしていただいた。鮮度が高いため身は歯ごたえがあり、噛むほどにほんのりと乗った脂の旨味が口に広がる。漬け丼や煮つけにしても美味しい。
釣れるまでヒラマサへの挑戦は続く。
今回紹介した釣りはYouTubeの「ぬこまた釣査団チャンネル」でも詳しく紹介しているので、ご視聴&チャンネル登録をよろしくお願いします。
写真=ぬこまた釣査団(大西)/文藝春秋・山元茂樹
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(ぬこまた釣査団(大西))