神子畑選鉱場跡を見学後、次の目的地に向かう一行=朝来市佐嚢
全国的にサイクリングのブームが続く中、兵庫県朝来市が市内の周遊観光の促進に自転車を活用している。貸し出しやサイクリングのサポートなどを担う拠点を開設し、近く稼働させる。運転に免許が不要で、インバウンド(訪日客)らにも使いやすく、鉄道駅などの要所と周辺の観光地を結んだり、滞在時間を延ばしたりする手段として期待を寄せる。(小日向務)
11月27日、朝来市佐嚢の神子畑選鉱場跡。同市や姫路、神戸、明石市に住む米国、カナダ、フィリピン、日本人の8人がレンタサイクルに乗ってやってきた。山の斜面に残る施設の基礎や、明延鉱山(養父市)と神子畑選鉱場をつないだ通称「一円電車」などについて、「神子畑鉱石の道推進協議会」の山内隆治郎会長から説明を聞いた。
一行は、サイクリングツアー「朝来市の紅葉を楽しむ」の参加者。JR生野駅を出発し、周辺の風景を楽しみながら神子畑に到着した後、次の目的地に向かった。ツアーは、道の駅あさご村おこしセンター(朝来市多々良木)の一角に市が整備した「サイクリングステーションあさご」のお披露目として開かれた。
カナダ出身で姫路市在住のシルバン・ペアレントさん(45)は「朝来は初めて来たが、古い物が好きなので、選鉱場跡や鋳鉄橋が素晴らしいと感じた」と笑顔を見せた。
8人は同ステーションにも立ち寄った。新拠点は、自転車のレンタルや修理、サイクリングツアーの引率などを担い、12月中旬ごろから本格稼働する。同推進協の会長も務める山内さんが理事長を務め、今秋に設立されたNPO法人「モンターニュ」が、市から新拠点の運営を請け負う。
同法人は、自転車による観光促進と地域の活性化のほか、多文化共生などに取り組む。このうち自転車部門を、南アフリカ出身の地域おこし協力隊員、ケビン・ネルさん(30)が中心となって受け持つ。
ケビンさんは「サイクリングイベントには可能性を感じている。これからも取り組みながら改善していきたい」と話す。同法人の事務局長を務める市非常勤職員のルヌブ・レティシアさん(30)は「地元の人を支え、地域経済や観光、多文化共生を進めていきたい」と語った。
■竹田城跡、酒蔵… ツアーやイベント多彩に展開
朝来市では、自転車に乗って楽しむイベントが数多く開催されている。地域団体や地域おこし協力隊、旅行会社が、共同で企画運営するインバウンド向けのツアーも10月に始まった。
同市の旅行会社「縁結びトラベル」は、ツアー商品「朝来トラベル・アンド・ステイ(Asago・Travel&Stay)」の取り扱いを始めた。
地域おこし協力隊のケビン・ネルさんが自転車ツアーを担当する。宿泊に使う築150年の旧生野鉱山職員宿舎(甲社宅、同市生野町)を活用したゲストハウス「生野ステイ」は、双子の弟レハン・ネルさん(30)が運営。同市観光協会の主導で、3者が連携している。
同社はツアー開始に先立ち、市内の旧4町域にある鉱山関連施設や、あさご芸術の森、竹田城跡、酒蔵などを巡る1泊2日の模擬ツアーを繰り返した。地元の住民との交流行事も盛り込んでいる。
10月半ばにあったツアーには、英国や台湾、米国の出身者と日本人の6人が参加した。山東町の酒蔵「竹泉」を訪問して施設を見学したり、酒蔵の歴史、思いなどを聞いたりしたほか、日本酒を試飲し、好評でお土産に購入する人もいた。
朝来市は11月上旬、市内の観光スポットなどを回り、写真を撮影してポイントを集める「自転車でGO!in朝来」を開いた。日本遺産「銀の馬車道・鉱石の道」を絡めて、同市と養父市を回る「南但馬グリーンライド2022」や、播磨と同市を走る「サイクルトレイン」なども催された。