正しい歩き方(イラスト・内山弘隆)
「転倒しない体づくり」をテーマに10回にわたって連載を続けてきました。最終回は基本に立ち返りたいと思います。
転倒予防の基本は、正しい姿勢と、正しい歩き方。ムリして何か特別な運動する必要はありません。生活の中で、正しい姿勢でしっかり歩くことが、転倒予防につながります。
正しい姿勢のポイントは、左右の肩の高さと腰のラインが地面に平行になっていることです。かかとはつけて、足先を少し開いて立ってください。この姿勢ができていると、横から見たとき、耳、肩、膝、くるぶしを結んだ縦の線が一直線になっているはずです。
毎日、鏡で自分の姿勢を見て、チェックしましょう。鏡を見ると筋肉が引き締まってきます。以前、私がオリンピック水泳チームのドクターをしていたとき、アーティスティックスイミング(当時はシンクロナイズドスイミング)の女性コーチたちは、いくつになっても毎日、水着姿で鏡の前に立ち、からだを点検すると言っていました。姿勢や体型の小さな変化に気づくことができれば、習慣を変えたりといった対応ができます。
次に歩き方です。ポイントは3つ。①目線を前方において、②つま先で地面をしっかりと蹴り、③ももからしっかり動かして、かかとから着地します。
つま先が上がらず、つまずきやすい「チョコチョコ歩き」や、後ろ重心となり不安定な「軍隊歩き」にならないよう、注意しましょう。
大事なのは、人は歩いたり運動するとき、からだだけを動かしているわけではないことです。たとえば買い物に行くときは、今日の夕ご飯は何だから、あそこのスーパーに行って、商店街のあの店に寄ってと、段取りを考えます。ジムに行ったり、テニスをしたり、ゴルフに行くときも、どんな格好で出かけて、どんな荷物を持って、何時に家を出てと、ある程度の計画を立てるでしょう。趣味で散歩や観劇に出かけるときも同じです。頭(脳)を動かし、そして心を動かしている。
つまりからだだけを動かしていれば、転倒予防になるわけではないのです。からだを動かし心を動かす。運動をするにも、ここは危ないなとか、今日は疲れているからほどほどにしようといった、研ぎ澄まされた感性が必要になります。
からだ・頭・心をバランスよく使うことが、転倒予防につながります。そのためには、いくつになっても自分の好きなことを持ち、趣味嗜好にあった活動を続けたい。自分らしく、ムリせず「イキイキと生きる」ことこそ、いちばんの転倒予防なのです。 (構成・砂田明子) =この項、おわり
■武藤芳照(むとう・よしてる) 1950年生まれ。医師。75年名古屋大学医学部卒業。東京厚生年金病院整形外科医長、東京大学教育学部教授、同大学理事・副学長、日本体育大学保健医療学部教授などを歴任。日本転倒予防学会初代理事長、一般社団法人スポーツ・コンプライアンス教育振興機構代表理事。スポーツ医学、身体教育学等の著作は100冊を越える。現在、一般社団法人東京健康リハビリテーション総合研究所代表理事・所長。東京大学名誉教授。
正しい姿勢(イラスト・内山弘隆)