「あの人、絶対発達障害だよね」自称カウンセラーが普通のママ友をいきなりHSP認定。他人にレッテルを貼る人は、なぜ平気でレッテルを貼れるのか?
一億総ストレス社会などという声が聞こえてくる昨今、人はそれぞれに生きづらさを抱えながら日々を過ごしている。しかし、その思いをSNSで発信して同じ悩みを持つ人と慰め合える人もいれば、苦悩を内に秘めて何とか日常をこなしている人もいるだろう。
危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏は、心の問題を他者と共有することのリスクについてこう指摘する。
「年々増加傾向にあるとされているのが、HSPに関するカウンセラーです。HSP(Highly Sensitive Person)は病気ではなく『気質』『心の傾向』などといわれ、現状では自己診断がジャッジの基準です。一方で民間のカウンセラー資格が複数存在している実情もあり、トラブル報告も散見されます。
自分と同じ悩みを持つ方の支えになりたいと思うあまり、心の問題を何かとHSPに結びつけるような考えや行動はリスクを伴うことをお忘れなく。また、生きづらさを抱えている人の弱みにつけ込んでくるビジネスにも注意が必要です」
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「小4の娘のクラスで知り合ったママ友なのですが、私をHSPだと勝手に断定して、いろんなアドバイスをしてくるので困惑しています。今はなるべく距離を置くようにしてはいますが」
こう語るのは39歳の会社員・尾崎芽衣子さん(仮名)。ママ友のAさんと出会うまでは、HSPについては「繊細で傷つきやすい人」という程度の認識しかなかったそうだ。
「私はHSPのことをメンタルの病だと勘違いしていたのですが、そうじゃないみたいです。病気ではないのだそうで、科学的根拠のないものらしいんですよ」
眉間に皺を寄せ、芽衣子さんはこう続けた。
「そのママ友とは、6月の授業参観日に隣に立ったのがきっかけでお近づきになりました。その日のうちに連絡先を交換し、子どもの持ち物のことなどをお互い聞き合うようになったんです」
始めのうちはいたって事務的なやりとりをしていたという2人。困った時にどちらかが頼り、解決できる方が助ける。よくあるママ友関係だった。しかし、ある時を境にその均衡が崩れることとなる。
「電話で話していた時に、ふとAさんが『芽衣子さんって、HSPだよね』と言ってきたんです」
芽衣子さんが口を開きかけると「ごめんね、こんな言い方失礼だよね。でも、私も同じ人種だから大丈夫」と、返事を遮ってまでAさんは自説をゴリ押ししようとした。早めにしっかり否定しておかないと面倒なことになりそうだと思った芽衣子さんは……
「たぶん私はHSPではないし、そもそもHSPのことをよくわかっていないと答えたところ、『そうなの? でも典型的な繊細さんだから』と言われました。芽衣子さんは凄く好奇心旺盛だから、HSS型かなと思うよと」
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©Getty Images芽衣子さんは、HSPに型があることを知らなかった。Aさんの話によると、HSPは4つにカテゴライズされているという。
未だにどれがどれかわからないという芽衣子さんに代わって記者が調べたところ、HSPは主に次の4種類に分類されるそうだ。内向型の「HSP」のほかに外向型と呼ばれる「HSE(Highly Sensitive Extroversion)」、内向性とともに外部との交流を求める矛盾した性質を持つ「HSS型HSP」、さらに社交的な性格で外部に刺激を求める「HSS型HSE」。
「私は確かに人見知りなところがあって、第一印象暗そうだったとか言われることが多いんです。あと、子どもが習っているバレエを見ていたらやりたくなって体験レッスンを受けたとか、Aさんに対してそんな話をしたことがあるんですが、どうやら私のそういう所を指してHSS型とか言い出したようです」
根暗で面倒臭い性格、と自分自身を評する芽衣子さん。しかし、これまでには数は少ないものの気の合う友達もできたし、人並に悩みを抱えつつもそれなりに生きてこられたと思っている。
「たとえばウケ狙いで自虐的に失敗エピソードを話した時などでも『わかる! あるよね、あたしら基本自己肯定感低いから』などと言ってやたらと同類にしたがります」
しかも、HSPに関するカウンセラー資格を持っているというAさんは、ことあるごとにアドバイスをしてきたり、芽衣子さんを分析しようとしてきたりする。最初のうち、うっかりまともに聞いてしまっていたのが良くなかったと、芽衣子さんは反省しきりだ。
「AさんはSNSでもカウンセリングをしてるし、HSPで悩んでいる人に向けた本も出版していると言っていました。それに、他の方のことも【あの人、絶対発達障害だよね】と断言したり。別に資格とか権威的なものにつられたわけではありませんが、そこまで詳しいなら……と話を聞いてしまったところは正直ありましたね」
HSPの専門知識を持っているなら……とAさんの話に聞き入ってしまった芽衣子さん。しかしこれがAさんの行動をエスカレートさせる原因となってしまう。
後編へ続く
取材・文 中小林亜紀